
正解のない問いには対話を。
フィル・カンパニーと極める、企業価値と世界観
駐車場の上部空間や狭小地、駅から離れた土地など、活用が難しい「まちのスキマ」の空間ソリューション事業などを展開する株式会社フィル・カンパニー。2023年の経営体制の変更を機に、社内外に向けて「自分たちは何者で、何を大切にし、どこへ向かうのか」を一貫した言葉と表現で伝える必要がありました。
そこでDynamoは、コーポレートアイデンティティ(以下、CI)の刷新を起点にサイト・カタログ・インナー領域へと横串を通していく「伴走者」として、ともにプロジェクトを前に進めていきました。多くのステークホルダーを巻き込んだ合意形成含め、表現と運用の両立をどう実現していったのか。この記事ではその過程を、両社の言葉でたどります。
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佐伯晋吾氏株式会社フィル・カンパニー マーケティング部 部長 -
柏田美波氏株式会社フィル・カンパニー マーケティング部 -
泉山由典株式会社Dynamo アートディレクター / デザイナー
「発注者と受注者」ではなくチームの一員。重視したのは対話と言語化

今回、フィル・カンパニーとDynamoで取り組んだプロジェクトについて教えてください。
フィル・カンパニー佐伯さま(以下、佐伯)
いろいろとサポートしてもらっていますが、一番大きなものだとCIの刷新です。キービジュアルの考案をはじめ、コーポレートサイトや進行中のカタログ制作など、複数の取り組みが走っています。
Dynamo泉山さんとの関係性については「発注者と受注者」というより、同じゴールに向かうチームの一員として入っていただいている感覚が近いですね。

▲CIの核となるフィル・カンパニーのキービジュアル。ロゴは、創業の理念であるPhil(=共存・共栄)、さらには、Phil Company / Phil Park / Premium Garage Houseの頭文字である「P」をモチーフとしたデザイン

Dynamo泉山(以下、泉山)
それはフィル・カンパニーさんが「一緒にいいものをつくる」前提で組んでくださっているのが大きいです。
発注者と受注者で分断されると、最初からコンペティションの形式のように提案資料を持っていく構えになることも多くなる。それだと本当の意味でのコラボレーションを実現するのが難しくなる場合もありますからね。
佐伯
同じくそう思います。お互いに共創していく意識がないと、依頼する側としても、外からは見えづらい課題や企業としての展望など、細かいニュアンスをすべて伝えるのが難しくなりますからね。
だからこそ、目線を合わせて対話しながら組み立てていくほうが、最終的に深みのあるアウトプットにつながると思っています。

泉山 いまは採用に紐づく取り組みにも携わらせていただいているのですが、そちらも対話や言葉を大切にしながら進めています。単なる「採用のためのツール」というより、フィル・カンパニーさんが大事にしているものは何か、という社内の共通言語をつくっているイメージですね。
フィル・カンパニー柏田さま(以下、柏田) 当社では、採用やインナーの領域に関しても、表現だけでなく「何を核として伝えるのか」を最初に揃える必要があると考えています。CIの設計から携わっていただいている泉山さんだからこそ、社内で曖昧になっている部分も言語化しながら表現を一緒に考えてもらえるので、とても助かっています。
100個のピクトグラムも制作。「らしさ」を追求したキービジュアル
今回のCI刷新のなかで、とくに「キービジュアル」の制作はどのように進んでいったのでしょうか。
佐伯
ご依頼時点で、パーパス・ビジョン・バリュー(以下、PVV)の設計、言語化、社内承認まではすでにこちら側で完了していたのですが、それをどうビジュアルとして説明できるかたちに落とし込むのかを泉山さんと一緒に考えていきました。
タイトなスケジュールやコストといった制約があるなかで、抽象度を上げて「フィル・カンパニーが持つ多様なエッセンスをどう表現するか」が最初の議題でしたね。
泉山
当初はいくつか新たな方向性も検討しました。しかし、もろもろの制約やデザインとしての「運用・活用のしやすさ」も 考慮すべきだと思ったんです。結果的には、フィル・カンパニーさんの事業価値や多様なアウトカムが体現できるデザインアセットをつくり、それを組み立てていく発想やアプローチがベストだと判断しました。
そのほうが社内で受け入れられ、愛されるものになっていきやすいでしょうし、ゆくゆくの展開も広がりやすいのではないか、と。複数の要素で一つの世界観を組むほうが相性良く企業姿勢も体現できると考えて、現在のキービジュアルに行き着きました。

▲フィル・カンパニーのキービジュアル

▲CI刷新とともに生まれた多様な「オリジナルピクトグラム」
キービジュアルの中心にある「P」のロゴデザインには、どういう意図が込められているのでしょうか。
佐伯
マップの「ピン」をイメージしています。フィル・カンパニーの頭文字「P」でもありつつ、まちのスキマにピンを挿していく、という意味を込めています。
そしてもう1つ、じつは「創造のバルーン(クリエイティブバルーン)」という意味をもっているんです。まちのスキマに挿したピン(創造のバルーン)からさらに価値が広がっていく。その広がり方まで含めて表現したい、という話をしていました。
泉山 中心にコアな軸となるシンボルがあり、その周辺に「日々の活動」があって、そこから生まれる価値がさらに外へ広がっていく。そういう構造が、キービジュアルとしても運用としてもフィルさんの実態に即した理想形だなと考えました。
佐伯 ここで出てきたのが、ロゴの周りに散りばめられている「オリジナルピクトグラム」のアイデアでしたよね。
泉山 そうですね。方向性が見えた段階で、象徴となるロゴの意味も踏まえて、全体の構造をどうするかを詰めていきました。
柏田 ピクトグラムの制作も「これがフィル・カンパニーらしいよね」というものを泉山さんと一緒に議論しながら進めました。PVVに込められた想いが伝わるか、トンマナをどうするか、どれだけバリエーションが必要なのかなど、細かい部分まで対話していけたので、納得感のある仕上がりになりました。
泉山 制作過程を振り返って、いまも鮮明に覚えているのは、ボードメンバーの皆さまに初回提案をしたときのこと。デザインの意図や思考のプロセスをご説明したうえで、「手始めに、100個のオリジナルピクトグラムをつくってきました」と提案にした際、驚いていただいたのも印象に残っていますね。
フィードバックは「言われた通り直す作業」ではない
CI刷新のプロジェクトを進行していくなかで、大変だった点はありますか?
佐伯 やはり社内の合意形成ですね。CIは会社の「顔」や「あり方」を決めるテーマです。経営陣だけでなく現場のメンバーも含めて、いろいろな立場の人に納得してもらう必要があったので、そこは大変でした。
柏田 社内からも、いろいろなフィードバックをいただくことが予想できましたからね。ただ、その言葉をそのまま受け取ってしまうと、どう直せばいいのかわからなくなってしまう。その部分の「接続」を泉山さんと考えていきました。

泉山
そもそもフィードバックへのご対応って、「言われたとおり直す作業」ではないと思うんですよ。なぜそうおっしゃっているのか、どのくらいの本気度で言われているのか、その背景を読み取って「つまりこういうことかもしれない」と翻訳しながら、ブラッシュアップしていく必要があると意識していました。
ロゴやサイトデザインなど、ビジュアルの表層的な部分だけだと「好き嫌い」の話も出てきてしまいます。その際には、「なぜこの表現なのかを論理的に説明できる」状態をつくることがマストです。ロジックとストーリーが積み上がっていれば、賛否が出ても議論が前に進みますからね。
佐伯 漠然としたフィードバックに対しても、「ここで伝えたいのは何か」「なぜこの表現なのか」を説明できるロジックがあることは大事ですよね。その点を泉山さんと対話しながら進められたからこそ、すべてのステークホルダーへの丁寧な説明ができたと感じています。


実際に、CI発表後は社内で賛否があったのでしょうか?
佐伯
やはり賛否はありましたね。でも、個人的には「賛否が起きない=当たり障りないアウトプットだった」という感覚もあるので、そこはポジティブにとらえていました。
こだわり抜いたアウトプットを出す以上、全員が大絶賛というのはあり得ません。大事なのは、なぜそうなっているのか、意図がちゃんと固まっているか。そこが固まっていれば、時間とともに伝わっていくと思っています。体感としては、8割くらいの方が好意的でした。
泉山
僕も、正しいデザインができていれば、おのずと馴染んでいくはずだとつねづね思っています。だからこそ、直感で押し切るのではなく、信じるに足る拠りどころを積み上げておく必要がある。
時間が経ったときに「あれでよかったね」と言える状態を目指したい。そのためにも、リリースして終わりではなく、意図を解説するポスターを制作したり、社内に周知していく活動をしたり。そういうプロセスも含めて、浸透するための仕組みをつくっていくことも大切だと考えています。
アウトプットの質を横串で見ていく。伴走者として広がる共創のフィールド
CI刷新以降は、どのようなプロジェクトが進んでいるのでしょうか。
佐伯
1階に広々としたガレージ、2階に居住空間を持つ車好きや趣味人向けの賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」の「プレミアムライン」のコンセプト商品発表に伴うLPデザインもご一緒しました。
戦略ターゲットやペルソナの設定、コミュニケーション方針を整理したうえで、撮影時のフォトディレクションからビジュアルの企画設計、LPデザインまでを泉山さんに一気通貫で伴走いただきました。

▲フプレミアムガレージハウス プレミアムライン「Sustainable PGH」のLPデザイン
柏田 また、当社のカタログのプロジェクトも現在進行形で進んでいます。各商品の機能価値・情緒価値をあらためて言語化したうえで、企画構成、撮影、デザインなどを泉山さんと一緒につくっています。CIで定めた世界観を、プロダクト単位でも落とし込んでいきたいですね。
フィル・カンパニーさんが、Dynamoに依頼し続ける理由はどこにあると思いますか?
佐伯
まず大きいのは、事業への理解がとても深いことです。こちらが言語化しきれていない「言いたいこと」まで汲み取って、ビジュアルに落とし込むスピードが速くて助かっています。
コンセプトをお伝えすると、「つまり、こういうことですよね」と一度翻訳して返してくれる感覚があって、それがアウトプットの精度につながっていると思います。
今後、両社でどんな関係性を築いていきたいですか。
佐伯
いまは基本的に、私たちマーケティングのチームがフロントに立って、社内のいろいろな相談を受けています。そこで一段目を整えて、他部門とも連携しながら進めていく役目です。
アウトプットの表現がチャネルごとに別の顔にならないように、横串を刺していく必要がある。その役割をDynamoさんに引き続き伴走していただきたいですね。
泉山
その横串を刺す動きが、結果としてアウトプットやアウトカムの質向上にもつながっていきますよね。その点においても、やはり完成品を持ち込んで承認を得ていくのではなく、対話を重ね思考を共にしながら「フィルさんにとって本当に良いもの」を目指し続けていきたいと思っています。
そのためにも、発注者・受注者の関係性に縛られず、言うべきことは言う、分からないことは素直におうかがいする、という真摯な姿勢でありたい。対話と共創が最良の結果を創り出すと信じながら、これからも一緒に走って行けたら嬉しいですね。

- Your Game Change.